2019/12/02

外食インカレ2019最終審査会 感想

2019.11.30に日本青年館にて行われました、「外食インカレ2019 最終審査会」を見てきました。外食インカレは、大学生・大学院生が提案するビジネスアイデアコンテストで、今年で二回目。フードサービス協会・フードサービス学会が主催で、私は学会側から裏方としての参加でした。今年のテーマは、2020年オリパラ以後の日本を見据えて、1.外食産業の生産性向上、2.グローバル視点での外食産業マネジメントのあり方、の二点でした。昨年同様、大学2,3年生の皆さんの興味深いアイデア、ビジネスプランを拝見し、とても面白かったです。

そこで、せっかく面白いプレゼンを拝見しましたので、その感想を備忘録しておこうと思います。

最終審査会のエントリーは6組17名。実はその前に、今年の全応募が120ほどあり、第一次審査で30程度に絞られたあとの最終審査会だったそうで、最終まで勝ち残っただけですばらしいです。一応、一位から三位まで順位がつきましたが、どれも非常に興味深く、示唆に富む内容だったと思いました。

もちろん、学部学生さんの発表ですので、経営や労務等、大人の目線で見れば足りないところや甘いところがあるのが当たり前です。でも、そういったスレてしまった大人には気がつかない視点や、知らないからこそ浮き出て見えるところに鋭く切り込むような提案があるのがこういうコンペの醍醐味だと思います。つまり、そういう外からのアイデアをうまく現状とすり合わせて、変えていくことができるかどうかは、大人の側の役目だし、責任だと思います。


【①夜の給食 外食産業が子供の「こ食」を解決】

山形大学3年生の皆さんの作品。子供が夜一人で食事をとる、「個食」が今問題になっているので、これを解決するためにフードサービス業が食事付き学童保育をやったらどうか、という提案です。
確かに、学童保育で夕食はレアで、民間の学童ならば対応してくれるところもありますが、公のところではほぼない(そもそも、あまり遅くまでは預かってくれない)と思います。我が家でもなるべく夜7時頃までには迎えに行くようにはしていますけれど、たまに遅くなってしまうとき、学童さんに軽食をお願いしたりしています。
最近は子ども食堂という選択肢もありますが、そちらはボランティアベースであり、毎日開催されているものではないとのこと。学童保育は親の都合に合わせてほしいというのが働く親の要望とすれば、日程が合わなければなかなか難しいのかもしれません。
そこで、外食で学童保育も兼ねたららどうか?というご提案。外食ならば、給食で最も難しいところの食事を提供する設備はありますし、メニューも数がでれば、栄養面などを考慮した専用メニューを開発することもできるかもしれません。
栄養バランスは私も思うところで、毎日食べて栄養バランスがうまく取れればいいなと、外食しながらいつも思いますが、外食はバランスが悪い、自宅はバランスが良い、というのは昔の話。ちゃんと選択すれば、外食でもしっかりバランスをとった食事ができます。そういえば、2018の外食インカレでは、栄養バランスを考えたメニューレコメンドのアプリを開発するという提案があったような・・・。
あとは気になるお値段。一食300程度に抑えても、一ヶ月20日間で6000円。お店側としては、夜の稼げる時間に席を占有するので、300円では難しいとすると、もっと高くなりますが、そうすると家計への圧迫も強まります。しかし、これからの少子高齢化社会、子供は社会全体の宝で、働ける大人はみんなしっかり働こう、という方向に進めば、親が働いている間の子供への支出を公に頼るのもありだと思います。今、そこに投入される税金は、将来私たちの老後を支える働き手になるし、今その子達を支えてあげることで、その親御さんが気兼ねなく働ければ、今の税収がアップします。

なお、この発表がみごと優勝を勝ち取りました。社会問題に鋭く切り込みつつ、外食産業の将来も見据えたすばらしいアイデア、と、審査員の皆様方(外食の社長さんたちと農水省、経産省の方)絶賛でした。


【②訪日外国人向け「あの味」ガチャ】

中京大学3年生の皆さんの作品。声を張った掛け合いのプレゼンが斬新かつコミカルで、終始会場が和やかでした。発表内容の「あの味」ガチャもとても斬新。
国際線の空港に、和食を作れる調味料を封入したガチャを置こうという話。お好み焼き玉と天ぷら玉。帰国の際、余った小銭をガチャに使って、調味料を持って帰ってもらい、食材は地元で調達して、和食を作る。和食自体を輸出するのではなくて、和食を作る体験を売るっていうのが面白かったです。食べるだけなら和食レストランがあるけれど、作ろうと思ったら調味料集めが大変なので、ガチャで持って帰ってもらったらいいじゃん、っていう発想がいい。確かに、日本にいても、外国の料理を作ろうと思ったら、食材はなんとかなっても調味料はなかなか買えない。お店で買えないわけではなくて、その量を買っても他に使えないし、という意味で。
プレゼンが対話形式で、めちゃめちゃ練習したんだろうなという好感度が高かったです。あと、「あの味」ガチャというネーミングも好きです。

ちなみに、審査員席の後ろにいたのでぼそっと聞こえてきたのが、このカプセルにはいるかなぁ?という声。この大きさだと一人分くらいだそうです。

【③ママドルタイム】

続いても中京大学から二年生チーム。プレゼンの雰囲気(対話形式だとか、声の張り方とか)が②とほぼ同じだったので、発表順が続いてしまったのはちょっと残念でしたが、面白かったです。
さて、ファミレスなどでは昼食が終わってそこから夜までの間にお客さんが少ないので、その時間を狙って、お店が主催でママの交流会をしたらどうかという話。ん?よくやってるよね?って思いながら聞いていたところ、「幼児ではなく、0~3才をもつママ対象」ということで、なるほど。確かに、保育園や幼稚園に入って、だんだんとママとも、パパともなどができてくると、もう地域コミュニティなどに頼らずとも交流できるのですけれど、最初は確かにそうでした。私も地域の児童館主催の0歳児のなんとか会に行ったことあります。(ママたちしかいなくて、扉を開けた瞬間「しまった!」と思いましたが。)特に0歳児持ちは孤独かもしれません。
また、公がセットしてくれる会はなにかと敷居が高く感じるものですけれど(ホントはそんなことないのですが、長子の0歳児のときはそんなことも全然わからないので)、入りやすそうで、お店の人も感じよく迎え入れてくれて、出入り自由な感じがするファミレス開催はいい感じがしました。
また、0歳児連れは入れる店が限られているので、外食に非常に困るのですが、こういうイベントを開催してくれているお店ならば、気兼ねなく入ることができます。
保育園、幼稚園のプロモーションの場というアイデア、これは気がつきませんでした。都心近くにいると、保育園も幼稚園も常に応募過多の激戦ですので。


【④Moppy ~もったいないをHappyに 価値ある消費へ~】

文教大学3年生の発表は、スマホアプリMoppyの紹介でした。Moppyは、食べられずに廃棄されてしまう食品を減らすアプリで、ドタキャンSOSとテイクアウトの二本立て。ドタキャンされて余ってしまった料理をMoppyユーザーに向けて発信して来店してもらったり、賞味期限切れ間近の食品をテイクアウトしてもらったりします。
個別のチェーンや店舗ではやっているところがありそうですが、スマホアプリはホームページ争奪が激戦で、たまにしか発生しないドタキャンSOSは、沢山の店舗が連合しないと、アプリをインストールしてもらえないでしょう。どれだけのチェーンや店舗を集められるかが鍵のような気がします。
外食時の持ち帰りドギーバッグについても、わさびシートを使って雑菌の繁殖を抑えるなどのアイデアがありました。一方で、これは質問もさせて頂いたのですが、ドギーバッグの科学的な衛生面ではなくて、法的・政治的な意味での衛生面、つまり、持ち帰り食品で万が一事故が発生した場合、原因の特定や責任の所在について行政の対応方針がちゃんと出ていないと、お店側はリスクを負いきれず、その結果、ドギーバッグが使われず、食品ロスが減らないという結果になってしまいます。そこで、審査員席に農水省の方がせっかくいらっしゃっていたのでお伺いしたところ、消費者庁を中心に基本的に自己責任の上で持ち帰ってもらうという方針が出ているとのこと。あとはこれが啓蒙されると、もっと持ち帰って消費できる食品が増えると思います。(参考:消費者庁 食品ロス削減関係参考資料(pdf)
あとは、スマホ決済なのは今風ですね。ドタキャンSOSがさらにドタキャンされたら泣きっ面に蜂、お店の方をそんな気持ちにさせないためにも、さくさくスマホ決済で、あとは店舗に寄るだけなのは便利です。


【⑤程よい高さの映える仕切り ~1人客用の仕切りの提案~】

日大2年生の発表は調査研究モノ。私は一応フードサービス学会ではデータ分析担当なので、こちらのご発表は私の担当だなと勝手に思っていました。
調査研究の内容は、外食のカウンター席で真ん中席(両側に別のお客さんが座る席)に座ったとき、両側に仕切りがあるとどの程度集中でき、また、ストレスを軽減できるのか、また、その仕切りの高さによって受けるストレスは変わるのか、その結果、滞在時間はどう変化するのか、というもの。ストレスの計測は実際に食事をしてもらうのではなくて、計算問題をやってもらったあとアンケートで集中度やストレスがどうだったかに答えてもらう。
仕切りの高さは15cm、30cm、45cmの三種類。結果は、30cmの仕切りでもっとも集中でき、かつ、リラックス度が低かったので、30cmが推奨されました。 ストレスは与えすぎず、かといってリラックスさせすぎても長居されてしまうので、30cmがちょうどよいとのこと。
結果のグラフだけではそれらの調査がどの程度信頼できるのかわかりませんでしたし、高すぎず低すぎず、真ん中の高さのものが最もリラックス度が低いという結果は測定誤差のような気もするのですが、まずはこういう調査を実際にやってみて、そこから実務的な施策に繋げてみるということで、大学生の課題としてはちょうどよかったと思います。あとは、統計的検定まで踏み込んで回答を吟味できるとよいですが、そこは3年生、4年生になってからぜひ取り組んでみてもらえたらと思いました。



【⑥スマホゲームでホワイト産業に!】
神奈川大学からは工学部の学生さんが、働き方をよりよくするサービスの提案でした。飲食店でのアルバイトをゲーミフィケーションによって楽しく、有意義な活動に変化させよう、というご発表で、プレゼンの画面もドラクエのようなRPGの画面を模した作りで面白かったです。
確かに、飲食店でのアルバイトはドラクエのようにLevel 1の初心者から始まって、日々レベルを上げたり、クエストをこなしていったりするゲームのようなものです。人によって向き不向きもあり、仲間と一緒に力を合わせて取り組んだり、足りないところを補い合ったり、ゲーム仕立てにするのにちょうど良いかもしれません。
興味深かったのは、アルバイトをする飲食店を変更してもレベルが維持されるというところ。前のお店での経験値がそのまま次のお店でも活かされて、多少は新しい仕組みに慣れる必要はあるものの、それまで育成してきたアビリティは引継がれます。
このサービスが一番すばらしい点は、冒険者のデータが取れて、それが見える化されるということです。日々のアルバイトでの活動やコミュニケーション、こなしたクエスト、それらがすべてドラクエのような世界観の中でデータとして残っているということ、また、それは「転職」してもある程度引継がれていって、自分の成長を俯瞰できるところ、さらには、誰かとの関係においてデータによってそれぞれの得手不得手が可視化されるので、パーティーを組みやすいこと。
データが取れていることでお店側は何ができるかというと、アビリティとクエストとの間の関係性を計算でき、さらにそれをオペレーションの最適化に繋げることができるというところです。シフト最適化や給与最適化という話題がプレゼンの中にもありましたが、まさにゲーミフィケーションによってリアルデータが取得でき、データに基づくオペレーションができるようになることが、この仕組みの最も重要な点だと思います。
実際、シフト最適化プログラムの作成依頼はしばしばあるのですが、データが乏しいことがいつも問題になります。経営者視点では、簡単に「それぞれの仕事に得意な人をあてて」とか、「相性の良い人をペアにして」ということが出てくるのですが、現実的にはそれらを示すデータはほぼありません。 いつも言いますが、データ分析で上手くいっているところの多くは、上手くいくためのデータを取る仕組みを作ったところです。その視点では、このサービスは人的資源配置最適化のための基礎データをとるプラットホームとしてかなり決定版なサービスであるように思います。もちろん、アルバイトさんが面白がってちゃんと使ってくれるような仕掛けは、もっともっと考えていく前提で。


【おわりに】

ということで、全6組の感想でした。昨年に引き続き、非常に興味深いイベントでした。外食の企業の経営者の皆さんも真剣に発表を聞いていらっしゃいましたし、産学を繋げる意味も大きかったように思います。そういえば学生さんのコメントで、アルバイトの経験はあったけれども、このイベントを通して外食の経営側の視点を持つことができたというお話しがありました。こういう機会があることで、アルバイトの側でしか知らなかった外食業界を、経営側として感じることができると、優秀な人材が集まるきっかけにもなると思います。もし来年も開催されるようでしたらぜひ裏方として携わり、学生のみなさんの面白い発表をまた拝見したいと思います。