2019/08/28

Weworkに移って半年の感想(コミュニティ編)

続きまして、Weworkに移って半年の感想、コミュニティ編です。

前回は、オフィススペースとしてみたときのwework(というよりシェアオフィス)のよさ、というか、weworkってなんでこんなに高いねんっていう疑問への私なりの回答(もしくは援護)を並べてみたのですが、それにしてもちょっと高い(笑)。周りのキレイなシェアオフィスと比べても2割増しほどの割高感があって、じゃあ自分はその価値をどう考えたか、なぜ2割増しでもweworkの方を選んだのか、その選択は半年経ってみてどうだったのか、という話です。

【コミュニティ機能】

やはり、特筆すべき点として挙げられるのは、売り文句の一つにもなっているであろう、コミュニティ機能です。他のシェアオフィスと比較しながら移転先を考えていたときも、これはwework独自の価値観でした。

ウチの仕事は、データ分析と、それに関連するコンサルティングなのですが、データ分析というのは地味にオフィスでデータをいじくり回していることが多い仕事です。俗に、データ分析は前処理8割と言いますが、それは本当で、一週間オフィスに籠もりっきりで前処理してた(実際には、前処理用のプログラムを書いていた)ということが普通にあります。また、仕事のスパンも長いので、ひとりが一年に担当できる業務はせいぜい数本です。一方で、一人前のデータサイエンティストになるには、お客さんにどれだけ有効かつ現実的な提案ができるか、コンサルティング力、コミュニケーション力が求められます。それは、毎日毎日同じ顔ぶれの環境では培われないな、と。様々な背景、目的、考え方、立場の人達とのコミュニケーション経験を通じて醸成されるもので、ひとりの職人の元で他の誰とも交流せずに身につくものではないです。

昨年までは親会社と同じオフィスにいたので、ある程度偏りはありつつも、自分達とは異なるベクトルをもつ集団と隣で仕事ができたことは、ウチのメンバーにとってのよい成長の芽になっていたと思いますし、その逆、自分達のベクトルが、相手への新しい視点だったり、新しい価値観だったり、なんらか影響を与えることができた部分もあったかな、と。じゃあ、それをもっと多様な「隣人」を持つことで、もっと面白く、もっと多様性のある環境にできたらいいんじゃない?

weworkはそれがコンセプトとして掲示されています。もちろん、他のシェアオフィスでも、もしくは貸しオフィスでひとりでやっていたとしても、自分達が積極的にコミュニケーションを働きかけていけば何とでもなるのですが(実際、自分自身は創業時からひとりの環境でそれをやってきたので)、そういう環境を、僅か二割増しの家賃で手元にぐっと引きつけられるのならば、それはめちゃめちゃ価値あることなんじゃないか。

イメージは、20年前に読んだ「iモード事件(松永真理著)」です。ドコモさんのiモード開発話の裏には、松永氏が仕込んだ「クラブ真理」というコミュニティがあって、そこでの、非公式で、ゆるい関係性から様々なアイデアが生まれましたが、weworkを知ったときに真っ先にこれを思い出しました。weworkはクラブ真理なんですね。(ってことを最近四谷のマネージャーさんとお話したら、「クラブヨシエを作る!」と仰っていました(笑))。また、以前勤めていた会社でも、重要な意思決定はすべてタバコ部屋で決まるというネタもあったり。これはつまり、ビジネスにしても何にしても、新しい視点、新たな発見、創発、そういったものは、弱い紐帯、weak tie からやってくるというグラノベッターです。一時期、複雑系とか社会ネットワークなどを研究していたことがあって、これは全く腑に落ちます。クラブ真理やタバコ部屋は、この「弱い紐帯」を繋げる機能を無意識的に創り出したものなのですが、weworkはこれを意識的に繋げようとしています。

ところで、実は長年、社会ネットワークや創発の周辺で仕事をしてきて感じていることなのですが、もしかして創発は稀にしか起こらないから創発なのであって、意図的に起こそうとしても無理なんじゃないか、創発の可能性を上げようという試みは無駄なんじゃないか、創発は起こるべくして起こるもので、起こらないところにいくらエネルギーを投下しても確率はほとんど変化しないんじゃないか、というモヤモヤがあります。だから、このweworkの試みというのは、社会ネットワーク的に非常に興味深い実験でもあるわけです。創発を意図的に起こせるのか、それは、もともとそのポテンシャルのある点だったから起こっただけで、意図的に起こそうとするアクティビティにどれだけの意味があるのか。その答えは、今後 wework から生まれる「創発」を観察していくことで、少しずつ見えていくんじゃないかなと思います。


【いい意味でのユルさ】

weworkは、ユルいです(笑)。いろんな意味で。一応、いい意味で。

何がユルいのかはいろいろ波紋を呼ぶと思いますので書きませんが、シェアオフィスを回ってみるとそのユルさが際立っています。ジャパン的な、手取り足取りやってくれるきめ細かで具体的なサービスは期待しちゃダメ。「こっちは客だぞ!高いサービス料払ってんだぞ!」と怒っちゃう人はweworkに向いてない。このユルさを楽しみ、ある意味、乗りこなすくらいに思っていた方がいい。そう思えたときに、実は真の価値が見えてきます。

このユルさは、逆に言えば自分達入居者の意識の方向性が問われるんですよね。自由気ままに、周りの迷惑を気にせずむしり取ろうと思えばいくらでもそうできちゃうけれど、自分達がそこにちゃんと意味を考えて、コミュニティの価値を保つためにどう振る舞うべきかを考え、行動しなければ、この仕組みはすぐに崩壊して、ただの割高なシェアオフィスになってしまう。コモンズの共有に慣れていないと辛い。人が誰しも持っているフリーライダー的萌芽、また、フリーライダーを憎み、かつ羨む心は人間誰しもが持っているものですが、それを「社会」として乗り越えたところに、この仕組みの本当の価値が見えてくるし、その意味で参加者になれるんじゃないかなと。上で挙げた、「弱い紐帯」という社会ネットワークの真の価値は、たぶんそこにあります。

ユルいコモンズの価値を最大限に高める原理は、「Give And Give」です。参加する全員が、その多少はありつつも、自分ができる範囲で、無理せず、Giveすること。もちろん、その気が無い人はGiveしなくてもいいけれど、それを糾弾しないこと。そして、Take を期待しないこと。コミュニティからむしり取ることを意識しないこと。そうすることで共有地の価値が上がっていき、結果的には大きな価値となって降ってきます。(これはゲーム理論の基本(笑))その意識を持てる人がどれだけ増えていくか、フリーライダーは必ず発生しますが、それを超える貢献者が育つかどうか(例えば、貢献が必ずしも貢献者には返らず、フリーライダーに落ちたりすることを許容できるか)、貢献者からフリーライダーへの転落をどれだけおさえられるかで、コモンズの盛衰がきまります。非常に面白い実験だと思います。


【半年経って】

少なくともウチの(若手の)メンバーは、もし占有オフィスだったら得られなかった外の世界との、プライベート以上仕事未満の繋がりを増やしているように思えるので、この移転はウチにとっては大成功だったと思います。

たぶん、この「プライベート以上仕事未満」というのが、弱い紐帯のポイントかなと。グラノベッターが挙げたような、ちょっと遠い親戚っていうのに近い。がっつり仕事を一緒にやるのではなく、かといって、全くプライベートでの付き合いでもないところ。たぶん、仕事の斜め上くらいで繋がっている学会とか、ある技術の勉強会とか、そういうのに似ている。プライベートではなかなか仕事に繋がるような話題には出会えない、出会いにくいし、かといってべったり仕事関係になってしまうと、アイデアとか気づきとか言う前に成果を出さなければならなくなる。だから、こういう中途半端な関係性、「ユルい」関係性にこそ、「気づき」があるし、それがこの場所の価値なんじゃないかな。

また、これもコミュニティ×ユルさの現れの一つだろうと思うのですけれど、気軽にイベントを開催できるのもすばらしい魅力です。学会発表まで行かなくても、仕事に関連してちょっと興味があって調べたこととか、研究したことなど、もしくは、勉強会程度の発表など、これもプライベート以上仕事未満の話題について共有したり、議論したりできる場という意味で、手頃な大きさのイベントを開催できるのは非常に面白いです。そしてその内容の縛りについても、「コミュニティに資するもの」という非常に漠然とした縛りしかないので、なんか面白そうとか、なんか役立ちそうというふわっとしたレベルで開催できる。これは、学術で言うところの「サロン」ですよね。学術では、研究者が一カ所に集まって様々な議論をしたり、自分の研究を披露して意見をもらったりしながら発展してきた歴史がありますが、その場所があります。クラブ真理の重要な機能の一つだと思います。ウチのメンバーも何度も参加したり、主催したりしながら、この「仕事未満」を積極的に楽しめていると思います。



ということで、二本に渡ってwework半年記念の感想を書いて参りました。これらのことは、ウチとは異なる業種だったり、異なる規模感だったり、異なる目的だったりする方々には当てはまらないところも多いだろうと思いますが、中にはこう思って参加している会社もあるんですねっていうサンプルの一つとして、もしくは、これから入居を検討している誰かに、ちょっとでも役に立つことがあればと思います。

あと、コミュニティの仲間内の皆さんには、私達はこういう気持ちでここにいますので、何か困ったことがあったり、気になること、聞いてみたいこととかあれば、おそらく意味のある回答ができるのはデータ分析に関することが中心になるとは思いますが(他には?・・・統計・数学とか、中学受験とか、男性の育休などの話題もアリかも)、ラウンジでつかまえてくださっても構いませんし、内輪のSNSなどで適当にお声がけ頂ければと思います。特に、データ分析での悩み事って、その多くは茶飲み話程度で解決したりするものなので。 おそらくこれが、私らのコミュニティに対する Give And Give できるものだろうなと思っています。

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